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幻想水滸伝・ジョアン×トーマス


 なんでか分からないけどいきなり呼び止められたかと思ったら、問答無用で三時間も指南された。
 ジョアンさんじゃないんだから、僕にそんな持久力があるわけない。それなのにジョアンさんは最初から最後まで同じペースで、正直死ぬかと思った。

 さすがのジョアンさんも三時間ぶっ続けで多少は疲れたらしく、一緒にお風呂に入りに来ている。午後の中途半端な時間だから他に誰もいなくて貸し切り状態だ……って喜んでたけど、それがまさかこんな風に裏目に出るなんて思ってもみなかった。
 お風呂に入って、ひとまず二人して体を洗った。ジョアンさんは手早く洗ってさっさと浴槽に行ってしまったけど、僕は髪も一緒に洗っていたからジョアンさんにずいぶん遅れをとって浴槽へ行った。

 それで、発見してしまったわけ。

 考えてみればいつも昼寝している時間に体を動かしていたんだから、眠気は倍だと思う。そうでなくともこんないかにも眠れと言わんばかりのところでのんびりしてたら、そりゃ誰だってウトウトしてしまうだろう。
 ジョアンさんだって例外なく。いや、もしかしたらジョアンさんこそ人一倍かも。
「……ジョアンさん……?」
 僕はおずおずと声をかけながら近づく。
 ジョアンさんは浴槽の縁に頭を預け、腕を組んでうたた寝をしていた。
「……寝てます?」
 分かりきったことを言いながら、ジョアンさんから少し離れたところに身を沈める。ほんの少し水面が波立って、なんとはなく行方を見守ると、それはジョアンさんのたくましい胸で跳ねた。

 ドキン

 いきなり心臓が打つ。
 僕とジョアンさんはいわゆる世間一般で言うところの恋人同士ということになっているんだけど、正直、こんなにトキメいたのは初めてだ。
 閉じられた瞳、しっとりと濡れて頬に張り付いている髪、唇は薄く開かれている。胸がわずかに上下していて、浅い呼吸をしているのが分かる。その胸の下辺りで組まれる腕。
 ほんの少しだけジョアンさんとの距離をつめる。
 自分にはない、筋肉のついた男らしい腕。激しく憧れるけど、ジョアンさんはお前はそのままでいい、といつも言う。でも僕も男としては、せめてセシルより力持ちになりたいって思う。そうするとあれは女の中でも馬鹿力の方だから比べるなと言われる。
 いろいろ理由をつけるけど、最終的にジョアンさんは僕を今のままでいさせたいらしい。
 でもやっぱり、騎士団の人たちみたいに重い剣を軽々振り回したり、ジョアンさんみたいに敵を一撃で倒したりしてみたい。それに強くなれば、お城の人たちも心強く思ってくれるだろうし。
 ……まぁ、どんなに頑張ってもできるようになるまでには相当かかるけど……。
 僕はジョアンさんから視線を外し(思わず凝視してた)、自分の二の腕を見た。そしてがっくり落ち込む。
 太さ硬さもさることながら、やっぱり屋内で仕事をしているからとにかく白い。ジョアンさんみたいに健康的な色に日焼けしたいなぁ……。
 そんなことを考えながら、もう一回ジョアンさんを見る。

 ドクン

 今度はさっきとは違う心臓の鼓動がした。
 あの腕が僕を守ってくれたときのことを思い出す。
 僕をかばってくれたときのことを思い出す。
 抱きしめられて苦しかった。でも腕の中はあったかくて、ジョアンさんの匂いがした。

 僕はほんの少しだけ視線をずらして、ふ、と息をついた。
 あぁ、いけない。
 憧れているというのは、それだけ求めているということで。
 つまり、今僕の前で寝ているジョアンさんは、僕がほしくてほしくて仕方ないものをさらけ出しているわけで。

 壮絶に、ものすごく、色気がある。
 色気があるっていうのが合ってるか分からないけど、僕にはそうとしか言えない。

 僕はぶんぶんと頭を振って、湯船から出た。このまま一緒にいたらどんどん変な気持ちになっていってしまいそうだったから。
 少しだけ湯当たりしたらしく、視界が白く霞む。湯船から出て冷たい空気に当たりながら少しそこでじっとする。ジョアンさんの方は見ないようにして。
「……ん」
 ふいに後ろで声がして、僕は思わず振り返ってしまった。
 どうも、ジョアンさんが単に寝ぼけて声を出しただけみたいだ。……でも、振り返った先にあったジョアンさんの顔は、僕が想像していた以上に近かった。
 手を伸ばせば頬に触れられる距離。
 ドクンと心臓が鳴った。

 キスをしたのは数えるていど。
 それなのにその全部はジョアンさんから。
 ほんの少し僕より冷たい唇は、ジョアンさんがいつもくわえているハーブの味。

 初めて僕から仕掛けるキス。
 唇は同じ温度で、石鹸の味がする。

 パシャン

 すぐ近くで水音が鳴ったかと思ったら、髪に指が絡んでくる。もちろん僕の指じゃないから、ジョアンさんの指だ。
 慌てて顔を上げるとジョアンさんと目が合った。
「……お、起きて……!」
 真っ赤になって飛びのけようとしたけど、ジョアンさんの方が速い。
「こーゆーのも、いいな」
 ニヤリ、と笑ったかと思ったら、僕を浴槽に引きずり込む。
 バシャン! と大きい音がして一瞬ワケが分からなくなったかと思ったら、いつのまにか背中からジョアンさんに抱きこまれていた。
「……いつから起きてたんですか」
 照れ隠しにぶっきらぼうに言う。
「けっこう最初っから。あんだけ見られてりゃ熟睡してても起きるっつーの」
 う。……すごい恥ずかしい……。
 何も言えなくなってうつむいていると、ジョアンさんの手がいきなり僕の二の腕を揉みはじめた。
「わっ、なんですか」
「筋肉ついてねぇかなと思ってさ」
「え、ついてますか? ついてますか?」
「つくわけねぇだろ、たったあれっぽっちで」
「……そりゃそうですよね」
「お前、今ぐらいが一番抱き心地いいんだから、あんま筋肉も贅肉もつけんなよ」

 その一言で、僕は瞬間的にのぼせきった。


END


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